オペラ解説:サロメ(Salome) R.シュトラウス作曲

日本語字幕付き音声のみ全曲


Aubrey Beardsley's Illustrations to Salome by Oscar Wilde MET DP863676.jpg


このオペラの作曲者リヒャルト・シュトラウスはオペラや歌曲そしてオーケストラ曲など幅広い領域で活躍しました。ドイツミュンヘン生まれで後期ロマン派の代表的な作曲家&指揮者です。

 

初期はかなり保守的な作風でしたが、後の「サロメ」は不協和音てんこ盛りの前衛的な作品、しかもエログロで異様な内容だったため激しい反発を受けました。METでこの作品を上演したときは観衆の怒号の激しさに1回だけで公演中止になったそうです (「リヒャルト・シュトラウス」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia) 最終更新 2021年3月5日 (金) 08:31 )。もっとも後の「バラの騎士」(オペラ解説「バラの騎士」)になると、後期ロマン派の美しく親しみやすい作風に戻ってしまいます。

 

この作品はオスカーワイルドの戯曲「サロメ」をもとにして作曲されました。もともとは新約聖書の物語を素材にしています(おたく記事:「オペラの元となった聖書の物語・新約聖書編」)。聖書ではヨハネ(ヨカナーン)の首を要求するのはサロメの母親ですが、戯曲ではサロメ自身がヨカナーンの首を要求し、銀の皿に載せられた彼の唇に口づけするというグロテスクで官能的、狂気に満ちた内容になっています。

 

「サロメ」は1幕しかなく上演時間およそ1時間40-50分と短いオペラです。しかし主役のサロメは舞台に出ずっぱりで歌い、しかも「七つのベールの踊り」でダンスもし、しかもそのあとで濃厚なモノログを歌わなくてはなりません。主役のソプラノにとって相当の負荷がかかる難易度の高い役です。このダンスの演出は、サロメを歌うソプラノが最後でヌードになることもあり、はたまた代役が踊ることもあり様々です。

 

ちなみに、「サロメ役のソプラノに要求される声はドラマチックソプラノの声量と力強さが必要とされているにもかかわらず高音領域で歌う時間が長く、しかも最低音はコントラルトの音域」 ("Salome" from wiki, the free encyclopedia. This page was last edited on 22 October 2021, at 08:37 (UTC).) なので、この役を歌いこなせるソプラノを見つけるのはなかなか難しいと言われています。


サロメは母親の夫であるヘロデ王が義理の娘(姪でもある)自分をみだらな目で見ていることも、ユダヤ人同士が宗教儀式で争っていることも、横柄なローマ人にも飽き飽きして宴会を抜け出し外へでる。

 

すると井戸の地下に閉じ込められた預言者ヨカナーンの声が聞こえ、彼女は彼に興味を持ち彼を連れ出すようナラボート(彼女に恋ごころを抱いている)に命令するが断られる。すると彼女はナラボートを誘惑し彼は誘惑に負けて預言者を連れて来させる。

 

ヨカナーンはサロメの母の罪を糾弾する。ヨカナーンを見た彼女は彼に興味を持つがヨカナーンは彼女を厳しく拒絶する。しかし彼女はかえって激しく恋心をそそられ、彼に接吻を迫る。

 

そんな彼女を見ていたナラボートは絶望して自死する。

 

王はサロメを探しに出てくるが、ナラボートの血で滑り不吉に感じる。妻のヘロディアスは部屋に戻ろうと誘うが王はその場に酒宴を張り、サロメに酌を命令するが彼女は拒絶する。王はさらに果物を食べさせようとしたり自分のそばに座らせようとするが彼女はまたもや拒絶。

 

そこにヨカナーンの声が聞こえ、ヘロディアスは不快がる。ユダヤ人たちは彼らにヨカナーンを渡すように願うが王は許さない。ユダヤ人たちは預言者やメシアの真偽でお互いに言い争っている。ヨカナーンは地下からヘロディアスを糾弾し、ヘロディアスは彼を黙らせてくれと王に願う。

 

王はサロメに舞を所望し彼女が欲しいものはなんでもやると神に誓い、彼女は舞を始める。(七つのベールの踊り)。有名な音楽で単独でも演奏される。

National Opera of Albania 2009 Salome; Soprano Nausicaa Policicchio


ヘロデは満足し、何を褒美にするかをサロメに聞く。彼女は銀の鉢にヨカナーンの頭を乗せてくれと所望する。ヘロデは驚愕し他のものを願うよう様々にサロメを説得しようとするがサロメは聞かない。

 

とうとう王はサロメの欲するものを持ってくるように命令し、いずれ禍いが襲うのではないかと怯える。サロメは兵士たちがヨカナーンの頭を持って来るように王に願う。

 

サロメは鉢の上に置かれたヨカナーンの頭に、「お前は私に接吻させなかった。今私が接吻する。私の歯で熟した果物を噛みしめるように」と叫んで彼の唇に接吻し、さらに自己陶酔の中で

 

「ヨカナーン、どうして私を見てくれないのだ、お前の舌は語らない。お前の頭は私のもの!お前は美しい!なんでお前は私の顔を見なかったのか!私の顔を見さえしてくれたらお前は私を愛したに違いない!お前の体に飢えている」 と長い独白を歌う。

Final Scene,Maria Ewing

 

SALOME

Ah! Ich habe deinen Mund geküsst, Jochanaan.

ああ!お前の口にキスをした、ヨカナーン。

 

Ah! Ich habe ihn geküsst, deinen Mund,

ああ!キスをしたのよ、お前の口に、

 

es war ein bitterer Geschmack auf deinen Lippen.

お前の唇は苦い味がする。

 

Hat es nach Blut geschmeckt?

血の味かしら?

 

Nein? Doch es schmeckte vielleicht nach Liebe.

違う? 恋の味なのかもしれない。

 

Sie sagen, dass die Liebe bitter schmecke.

恋は苦い味がするというから。

 

Allein was tut's? Was tut's?

だけどそれが何なの? 何なの?

 

Ich habe deinen Mund geküsst, Jochanaan.

お前の口にキスをした、ヨカナーン。

 

Ich habe ihn geküsst, deinen Mund.

お前にキスした、お前の口に・

 

HERODES

Man töte dieses Weib!

あの女を殺せ!

 


王は恐れとサロメに対する嫌悪感に圧倒され彼女を殺すよう兵士に命令し、幕が降りる。(2021.01.11wrote) オペラ解説に戻る