ヨナス・カウフマンの2023年を振り返る

Iltrovatoreによる公演の記録及コメント

 

今年のカウフマンのオペラ公演出演回数は演奏会方式を含め27回、そして12月の最後の3公演をすべてこなすことができればリサイタル・コンサートは19回となります。

 

今年はカウフマンにとって散々な年でした。昨年度の終わり頃から公演中の激しい咳と痰に悩まされ、体力も消耗し声も出ずキャンセルが続きました。7月の頃だったかこの不調の原因が明らかになり治療しましたが、今度は治療の副作用がひどく再び歌えなくなりキャンセルが更に1ヶ月ほど続きました。声が元に戻ったかなあ、と思えたのは10月の終わりの「オテロ」くらいから。

 

1月 

 Baden-Baden Festspiel 25周年オープニングコンサート、Baden-Baden、2023.1.8 

 

Jonas Kaufmann & Ludovic Tezier

 

テジエとの二重唱で盛り上がりました。

 

★「アイーダ」 ウイーン歌劇場、 ウイーン、2023.1.14 / 18 / 21

 

Anna Netrebko, Jonas Kaufmann, Elina Garanca, Luca Salsi, Alexander Vinogradov、指揮:Nicola Luisotti、演出:Nicolas Joel

 

この「アイーダ」は、アンナ・ネトレプコ、エリーナ・ガランチャ、ヨナス・カウフマンという超人気歌手たちを集めた豪華な公演で、もちろん人気沸騰。4回しかない公演のチケットは全て完売となりました。

 

しかしカウフマンは精彩を欠いていた様に見受けられます。動画などで聴いても彼の「清きアイーダ」の最後は美しいピアニシモ、モレンドになっていますが声量が不足し高音などがつらそうだったそうです。

 

そして最後の公演はキャンセル。そして1月終わりのリサイタルは延期、2月のモンテカルロのアンドレア・シェニエ公演も全てキャンセルしました。このオペラ公演も全ての公演が完売だったのに残念でした。

 

4月 

★「タンホイザー」 ザルツブルク音楽祭、ザルツブルク、2023.4.1 / 5 / 9

 

Georg Zeppenfeld, Jonas Kaufmann, Christian Gerhaher, Marlis Petersen, Emma Bel、指揮:Andris Nelsons, 演出:Romeo Castelllucci 

 

カウフマンタンホイザー初ロールです。これは評論でも評判がよかったです。3公演とも完売またはほぼ完売状態でした。残念ながら初ロールで期待されていたガランチャはキャンセル。

 

★「ワルキューレ」 テアトロ・サン・カルロ、ナポリ、2023. 4.16 / 20 / 23 / 26 / 29 

 

Jonas Kaufmann, John Relyea, Christopher Maltman, Vida Miknevičiūtė, Varduhi Abrahamyan and Okka van der Damerau、指揮:Dan Ettinger, 演出:Federkci Tiezzi

 

イタリアでやる「ワルキューレ」。John Relyea, Christopher Maltmanと、ドイツ語圏ではこの役では出演しないであろう方々が歌ってました。あまり評論はでていなかったのですが、カウフマンの評価はまあいつものごとくほめられてるという感じでした。

 

5月

★ 「ヴェルディとヴェリズモコンサート」、ドイツ6つの都市、2023.5.3 /6 / 12 / 15 / 18 / 21

 

München, Isarphilharmonie  2023.5.3

Essen, Philharmonie  2023.5.6 

Hamburg, Laeiszhalle 2022.5.12 

Nürnberg, Meistersingerhalle  2023.5.15 

Stuttgart, Liederhalle  2023.5.18  

Frankfurt, Alte Oper  2023.5.21

 

以前から良く歌っている「アイーダ」、「オテロ」、「カヴァレリア・ルスティカーナ」、「道化師」の“Vesti la giubba”などに加えほとんど歌ったことのない「仮面舞踏会」や「LUISA MILLER」の"Oh! fede negar potessi ... Quando le sere al placido"、等を歌っています。更に「道化師」でバリトン の持役であるトニオの「前口上」も歌いました。

 

聴衆に不動の人気アリアを集めて歌ったという感じです。評論での評価はどの都市でも非常によかったです。

 

★ 「アンドレア・シェニエ」、スカラ座、ミラノ、2023.5.24 / 27

 

Jonas Kaufmann, Sonya Yoncheva, Amartuvshin Enkhabat、指揮:Marco Armiliato、演出:Mario Martone

 

4月「タンホイザー」から始まって5月の「アンドレア・シェニエ」で合計16回、平均1週間に2回の頻度で様々な公演が2ヶ月続きました。この「アンドレア・シェニエ」公演はカウフマンの「ヴェルディとヴェリズモ」コンサートと日程がほぼ重なっていたため、日程混みすぎでシェニエを歌うのは無理だと思っていました。

 

が、最終的にスカラ座が頑張って(?)最後の2回の公演を(根負けした?)彼が歌うということになった、と邪推しています。最後の2回だけの出演だったので評論もあまり出なかったですが、見た限りでは好評でした。


 

6月〜7月

★ 「ウェルテル」 ROH、ロンドン、2023.6.20 / 23

 

Jonas Kaufmann, Aigul Akhmetschina, Gordon Bintner, Sarah Gilford、指揮:Antonio Pappano, 演出:owned by Opéra national de Parisによる

 

この公演はカウフマン絶不調。とりあえず最初の2回は歌いましたが後の3公演はキャンセルしました。評論も散々でした。共演者の一人は「彼はアレルギーが酷かったみたい」とコメントしていました。

 

★ オープンエアコンサートwith Rachel Willis-Sørensen 、 ベルリン、Waldbühne、2023. 7.8

 

このコンサートでは打って変わって問題なく快調に歌ってました。また評論でも好評でした。ところが次に予定されていたエッフェル塔前でのコンサート、エクサンプロヴァンスでのコンサート(演奏会方式「オテロ」だったか)、Regensburgのコンサート、バイエルン歌劇場でのソングリサイタルと7月中の公演全てをキャンセルしました。

 

その際、カウフマンはFBに声明を出しました。その声明およびその後のインタビューの中での説明を総合すると、

 

彼は昨年暮れから原因不明の咳と痰、呼吸困難に悩まされていて、その原因は多剤耐性菌感染だったことが7月に判明しました。4週間にわたる抗生物質の多量投与治療により咳・痰や呼吸困難などの症状は消えWaldbühneでのオープンエアーコンサートでは一旦元気に歌うことができました。しかし体中の関節や筋肉が痛むという治療の副作用が酷くなって再び歌えなくなってしまいました。

 

副作用から回復するには相当時間がかかったようです。(後編に続く)

 

(2023.12.25 wrote) 


8月

★ 「ジョコンダ」(コンサート形式)シドニー、オーストラリア、2023.8.9 /12 

 

Saioa Hernández、Agnieszka Rehlis、Vitalij Kowaljow、Ludovic Tézier、Jonas Kaufmann、指揮Pinchas Steinberg

 

4週間にわたる抗生物質の治療を終了した後すぐの、オーストラリアでの「ジョコンダ」です。この公演はオペラオーストラリア創立50周年記念の公演でもあったらしく、公演の幕間シドニー湾に花火が打ち上げられました。

 

評論家はカウフマンが病み上がりだと理解しているようで、おそらくいまいちだったと思われる彼の歌唱も暖かく評論してくれたように感じられます。


★ Jonas Kaufmann in Opera-Arena 100、 Arena di Verona、2023.8.20 

 

このコンサートではヴェルディ、プッチーニなどのアリアオペラをソーニャ・ヨンチェバ、リュドヴィック・テジエなどと一緒に歌いました。録画で聴く限り、まだ完全復帰ではないがだいぶ回復してきているな、という感じがしました。

 

9月

★ Doppelgange」、Park Avenue Armory, New York  2023.9.22 / 23 / 26 / 27 / 28 

 

クラウス・グスによるフランツ・シューベルト作曲「白鳥の歌」の再構築作品。「白鳥の歌」の各曲をグスの戦争のイメージに載せ、光、音、映像で表現した音楽付き演劇作品という感じです。

 

設定は第一次世界大戦の軍病院の中。カウフマンは軍病院に収容されている瀕死の兵士。カウフマン演じる兵士は、人生の最後の1時間を思い出(「白鳥の歌」に収められた歌曲)に浸って過ごす。という設定になっています。

 

今回の公演はカウフマンとドイチェさんのリートリサイタルと言うよりグスの実験演劇と言った方が良い感じに思えます。評論家はそちらの方面に注目していたこともあり、カウフマンの歌唱は称賛されてはいたものの最重要視されてはいない気がしました。

 

その後10月11日に予定されていたガザピラミッド前のコンサートは、イスラエル・ハマスの戦争が始まってしまったため、安全上の理由からキャンセルされました。


10〜11月

 

★ Béla Bartók National Concert Hall  Budapest, 2023.10.15 

2023.1にキャンセルしたコンサートの代わり。ヴェルディ、ヴェリズモ、ワーグナーのアリアを歌いました。

 

★ 「オテロ」、ウイーン歌劇場、ウイーン、 2023.10.25 / 28 / 31 / 11.3

Jonas Kaufmann, Ludovic Tézier, Rachel Willis-Sørensen, Bekhzod Davronov指揮:Alexander Soddy, 演出:Adrian Noble

 

全公演完売。この公演は主役3人が豪華キャストでもあり、その他の若手もハイレベルだったことから非常に評判の良い公演となりました。カウフマンに対する評価も非常に高く、大褒めされていました。私もこの公演初日を聞きましたが、今回の状態ならば絶好調とは言わないけれど復調したと言って良いと感じました。

 

★ “Caruso a Monaco” Opéra de Monte-Carlo、 モナコ、2023.11.19  

 

指揮: Antonio Pappano. 演出:Davide Livermore 

 

「偉大な歌手に捧げる賛辞」という副題がついていました。カルーソーに対するオマージュと彼とモナコを結びつける記憶をドラマ的な演出も含めて回想するという試みだったらしいです。彼の歌唱の深さに対する賛辞が評論に出ていました。声のトラブルに関する評論はもう無くなってしまったようです。

 

12月

 

★ トゥーランドット」、ウイーン歌劇場、ウイーン、2023.12. 7 / 10 / 13 / 16 / 19 / 22

Asmik Grigoriann、Jonas Kaufmann、Kristina Mkhitaryan、指揮:Marco Armiliato、演出:Glaus Guth、

 

全公演完売。戻りチケットを手に入れるのも大変という人気だったらしい。トゥーランドット初ロールのAsmik Grigorianが素晴らしい歌唱を披露していました。Jonas Kaufmannも非常によい評判。力強い歌い方で以前の輝きが戻っている。カウフマンには他のテノールと一線を画す確かな何かがある。などと評されています。

 

カウフマンにとって声質的にも声域的にもキャラクター的にもカラフが適役とは思い難いのですが、それでも器用に歌えてしまい良い評判を取ると言うのが彼氏のすごいところです。

 

★ ジルベスター concert, フィルハーモニー、ベルリン 2023.12.29/ 30 / 31 

Vida Miknevičiūtė, Jonas Kaufmann, Georg Zeppenfeld、指揮:Kirill Petrenko、ベルリンフィルハーモニックオーケストラ

 

「タンホイザー抜粋」及び「ワルキューレ」第1幕


今年発売のCD, DVD & Blue ray

 

★「トゥーランドット」CD

Sondra Radvanovsky, Jonas Kaufmann, Ermonela Jaho, Michele Pertusi, Michael Spyres, Orchestra & Coro dell’Accademia Nazionale di Santa Cecilia, Conductor: Antonio Pappano (Recording 2022).

 

★「アンドレア・シェニエ」DVD & Blue ray

Jonas Kaufmann, Anja Harteros, Georges Petean etc., Bayerisches Staatsorchester, Conductor: Marco Armiliato; Director: Philip Stölzl (Live Recording 2017)

 

★「The Sound of Movies」DVD & Blue ray

Jonas Kaufmann, Miloš Karadaglić (Guitar), Czech National Symphony Orchestra, Conductor: Jochen Rieder (Recording 2022)


新たに得ることになった職  

 

オーストリア、チロリアン・フェスティバルErlフェスティバルのインテンダント(監督)に任命される。2024年9月から。任期6年。

 

(2023.12.30 wrote) おたく記事に戻る